【インタビュー】植物と芸術が共存する庭をめざして(後編)

高知県 北川村「モネの庭」マルモッタン
チーフガーデナー・町田結香さん インタビュー【後編】

本家以外で「モネの庭」と名乗ることが、世界で唯一認められた高知県にある「北川村『モネの庭』マルモッタン」。
前編に続き後編では、チーフガーデナーの町田結香さんに、庭園管理の方法や、自宅などでモネの世界観を再現できるちょっとしたコツを教えてもらいました。

(インタビュー前編はこちら

町田結香(まちだゆうか) プロフィール

「北川村『モネの庭』マルモッタン」チーフガーデナー。
島根大学で植物病理学を専攻後、庭師として花に携わる仕事に就きたいとの思いから2016年に同園入社。
前チーフガーデナーの指導のもとで花づくりや造園の技術を習得し、2024年より現職。

取材・文/小瀬村泰人(株式会社コセプロ)
写真提供/北川村「モネの庭」マルモッタン

クロード・モネの絵画を再現するカラーリングのコツ

モネの絵のような庭を家庭でも再現できるもの? そんな問いにチーフガーデナーの町田結香さんが“本家ジヴェルニー直伝”のコツを教えてくれました。

「寒色と暖色の花を植え分け、両者の間に白い花をちらちらと入れることで、モネの絵の点描のような光や色のメリハリが表現できます。こうしたカラーリングを意識するだけでも、モネの世界観に近づけるんじゃないでしょうか」

同園でもこうした色使いの妙は随所に見られ、たとえば園の西側には赤やオレンジなど暖色系の花が植えられています。これは、海に沈む夕陽が水面の反射光とともに差し込むことで透けるような背景色となり、花々の色彩がより強調される効果を期待。対照的に東側は寒色系の花を植えたり、角地は陰って沈み込んだ色調にならないよう白や明るく抜けた黄色などで構成しているそうです。

「ご自身が好きなモネの絵を参考にして、より近くで観察すると色の振り分けなどもわかると思います。そこから発想を広げると、たとえばパンジーだけでも多色を組み合わせて再現できるかもしれませんし、高さのある植物を種から育ててみるのも面白いですね」と話す町田さん。さらにこんなちょっとしたコツも教えてくれました。

「たとえばピンクなどは一般的に暖色系とされていますが、花の色素によっては青や紫が淡くなってピンク色に見えるものもあるので、それらは寒色系として植えるのも効果的です」

地域の土壌、植物、生態系を尊重

園内の植物は6~7割が自家採種。「種まで取れるということは、この地域の土壌や気候に適している証拠でもあるので、園内で循環させて世代を継いでいくことが植物にとっても土地にとっても良いこと」と町田さんは考えています。こうした方針は園全体の管理でも一貫しており、たとえば除草などは①取るべき雑草、②置いてよい雑草、③残すべき雑草を区別する「選択的除草」を手作業で行うことで、「より自然に見えますし、限られた人員で管理する上での省力化にもつながります」(町田さん)。

休園期間の12~2月には園内全ての庭と花壇の植物を抜き、一年草は廃棄、寒さに弱い多年草は土つきのまま苗用ビニールハウスで保管します。園地は天地返しをして土壌をしっかり混ぜ返し、根が呼吸しやすい環境を整えるとともに、ネコブセンチュウなどの病害がないかチェック。その後、牛糞堆肥などの有機質肥料をたっぷり投入し、翌シーズンに向けた地力を養います。

防除では基本的に薬剤に頼りすぎないよう心がけ、ヨトウムシやカメムシのような害虫は見つけたら手作業で駆除するほか、クモやハチ、チョウなどの益虫・天敵の力もフル活用。これらは植物が受粉する上でも大事な存在です。

「地域固有の自然や生態系のバランスを尊重した、無理のない管理をすること。これが、人にも植物にも適した環境を長く維持できる秘訣と考えています」(町田さん)

植物と美術が融合する場所

高知県室戸市出身の町田さん。子どもの頃から屋外で体を動かす仕事がしたいと考え、「農業かモネの庭か牧野植物園で働きたい」と口にしていたそうです。島根大学で植物病理学を学んだ後、酪農の仕事などを経て同園へ。職人気質の前任者・川上裕さんに師事しましたが、「具体的な指導や助言を手取り足取り、といったことはほとんどなく、普段の仕事ぶりやちょっとした会話からヒントを拾い拾いやってきました」と笑います。

2024年、師匠の引退に伴って後継者に指名されチーフガーデナーに。「モネの庭は植物と美術が混ざっているような空間なので、どちらを愛する人にも満足してもらえる庭園にしていきたい」と話します。

モネの資料や絵画研究を怠らず、植物の知識を日々アップデートし、刻々と変化する気候や環境にも対応……とやることは山積ですが、「考えることを諦めず、気負いすぎず、庭づくりを楽しみたい」——等身大の思いをそう語ってくれました。

モネが愛した庭

四季折々の花が咲き誇る北川村「モネの庭」マルモッタン。園内は「水の庭」、「花の庭」、「ボルディゲラの庭」などに分かれ、中でもモネの代表作として有名な睡蓮が咲く「水の庭」は、池・太鼓橋・藤棚・柳・竹などが配され、モネが晩年こよなく愛した場所を再現しています。「花の庭」はバラのアーチやノルマン囲いの造形、花壇ごとに変わる花色や混植の取り合わせが彩り豊か。「ボルディゲラの庭」は光り輝くモネの作品から発想されており、高知の自然の中で感じられる地中海の世界観を作り上げています。

(DATA)
北川村「モネの庭」マルモッタン

〒781-6441 高知県安芸郡北川村野友甲1100番地
tel=0887-32-1233 fax=0887-32-1243

https://www.kjmonet.jp/

〈開園時間〉9:00~17:00(最終入園16:30)
〈休園日〉6月~10月の第1・第3水曜日、12月1日~2月末日
〈入園料〉
  一般:1,000円
  小中学生:500円
  小学生未満:無料
  団体(20名以上)一般:900円/小中学生:450円