【インタビュー】クロード・モネの精神と世界観を受け継いだ庭作りを(前編)
高知県 北川村「モネの庭」マルモッタン
チーフガーデナー・町田結香さん インタビュー
フランスの画家クロード・モネが愛した庭を日本で再現している高知県「北川村『モネの庭』マルモッタン」。世界で唯一、モネの名を冠することが許された庭園です。同庭園のチーフガーデナー 町田結香さんにお聞きした、日仏で紡がれた庭と植物を巡る交流の物語を、前編・後編、2回に分けてお届けします。
町田結香(まちだゆうか) プロフィール
「北川村『モネの庭』マルモッタン」チーフガーデナー。
島根大学で植物病理学を専攻後、庭師として花に携わる仕事に就きたいとの思いから2016年に同園入社。
前チーフガーデナーの指導のもとで花づくりや造園の技術を習得し、2024年より現職。
取材・文/小瀬村泰人(株式会社コセプロ)
写真提供/北川村「モネの庭」マルモッタン
世界で唯一認められた、門外不出の名称
高知県東部に位置する小さな山村・北川村には、世界でただ一つ本家以外で「モネの庭」の名を冠することが認められた庭園があります。親日家としても知られた画家クロード・モネが、半生を過ごしたフランス北部ジヴェルニーの庭を、気候も植生も異なる日本の地で再現。一見途方もないこのプロジェクトを実現させたのは、バブル崩壊後の地域再生を願う村の人々の思いでした。90年代後半から村の担当職員が何度も渡仏し、何のツテもコネクションもないまま、庭園を管理するクロード・モネ財団(当時)と交渉。当初は会うことすら叶いませんでしたが、繰り返し熱意を伝え続けたところ、「日本の小さな村の頑張りに協力しましょう」と97年に同財団が決断。そして99年、「北川村『モネの庭』マルモッタン」の名称を授かったのです。
光の画家・モネが描いた理想の庭
印象派の巨匠クロード・モネは、43歳の時にフランス北部のジヴェルニーに移住し、セーヌ渓谷の肥沃な土地に生涯をかけて理想の家と庭を作り上げました。これがいわゆる「モネの庭」で、『睡蓮』など多くの名作を生み出す舞台となります。モネはこの場所に3つの温室を建てて6人の庭師を雇い、日本を含めた世界中から珍しい草木や花を集めて植えました。“パレットのような庭”、“生きた美術館”とも評されたこの庭は、フランス芸術アカデミーが中心となって現在も保存・管理されており、北川村では本家の指導と助言のもとで忠実にモネの精神を再現、2000年4月に開園しました。
日仏の庭師がはぐくんだ心の絆
しかし、フランスのジヴェルニーと高知県の北川村では、気候や土壌、植生などが大きく異なります。当時北川村で庭園管理を担当した庭師の川上裕さんは、その難しさに直面。庭の状態が悪ければ名前を取り上げられる状況にすらなりかねない重圧の中、「ひたすらクロード・モネとの対話を続けた。彼がもしこの庭を見たらどう感じるか? 彼の絵を見て、彼が訪れた場所を訪ねて、とことん考え続けた」と、当時の取材で語っています。寡黙で昔気質の職人肌——そんな川上さんの庭に対する真摯な姿勢が、ジヴェルニーの庭園管理責任者ジルベール・ヴァエ氏の胸を強く打ち、やがて両者の間に揺るぎない信頼関係が生まれます。こうして育まれた日仏の絆は、現在のチーフガーデナー町田結香さんにも脈々と受け継がれています。
“手入れをしていないような手入れ”
現在、庭園全体の管理を担っている町田結香さんは、“自然に見えること”こそ北川村「モネの庭」の最大の特徴と言います。
「園内にある『花の庭』ゾーンは最も人の手がかかっている庭ですが、来園者からは『植物の種が落ちて自然に花が咲いているみたい』と言われることがあります。モネの世界観を表現するにはそれくらいがちょうど良くて、本当に放置されている庭は“自然”ではなく“荒れている”印象になってしまいます」
これは、「放置することは“自然”ではない。手を入れることで“自然”に見えるようにしなさい」という本家ジルベール・ヴァエ氏の教えであり、また「手入れをしていないような手入れを」という川上裕さんのモットーでもあるそうです。
庭を管理する上で、「植物が"自然に湧き上がってきている"ようなイメージを大事にしている」と語る町田さん。花の向き一つとってもすべて正面を向くのではなく、斜めだったり上を向いていたり、生き物としての自然な個性や性質を生かした植栽を心がけているそうです。また、園内の「水の庭」ゾーンでは、周囲の風景が水面に映り込む“水鏡“を重視しているとのこと。
「モネが一番大事に描いていた部分で、睡蓮の円の中心軸が少しずつずれているんです。これが一直線に並んでいると違和感があるので、どの角度から見ても直線的にならないよう調整しています」(町田さん)
“ただの模倣ではないところが素晴らしい”
2008年に造成された「光の庭」ゾーンは地中海がテーマ。しかし、亜熱帯に近い気候の高知県では植物の繁茂が著しく、すぐにジャングル化してしまうため、地中海の乾燥した雰囲気がなかなか出せずにいたそうです。そこで2020年に新たに「ボルディゲラの庭」として全面リニューアルを実施し、防草シートを敷いた上に約4000tの瀬戸内海産の石を入れるなどして、地中海のドライな空気感を再現しました。
「高知県ならではの起伏に富んだ地形を利用して、ヤシやオリーヴといった地中海の植栽と、ツツジやユズなどの四国の植栽を合わせました。海や山の佇まいも借景にして、高知の自然の中で感じられる地中海を表現しています」(町田さん)
ヨーロッパと四国では気候や植生が大きく異なるため苦労も多いそうですが、「フランス側はそれらも理解して受け止めてくれて、こちらが驚くほど柔軟な発想でアドバイスをくれたりもします。モネも新しい植物を積極的に取り入れて植えていたそうなので、そんな画家のチャレンジ精神も受け継いだ庭作りを心がけたいですね」と話す町田さん。こうした姿勢を、本家モネの庭も「ジヴェルニーとまったく同じではない、ただの模倣ではないところが何よりも素晴らしい」と高く評価しています。
次回、後編では、庭園管理の方法や、自宅などでモネの世界観を再現できるちょっとしたコツをテーマにお届けします。ご期待ください。
インタビュー後編はこちら
(DATA)
北川村「モネの庭」マルモッタン
〒781-6441 高知県安芸郡北川村野友甲1100番地
tel=0887-32-1233 fax=0887-32-1243
〈開園時間〉9:00~17:00(最終入園16:30)
〈休園日〉6月~10月の第1・第3水曜日、12月1日~2月末日
〈入園料〉
一般:1,000円
小中学生:500円
小学生未満:無料
団体(20名以上)一般:900円/小中学生:450円
