【インタビュー】みどりの活用で地域の可能性を高める

ランドスケープ経営研究会代表幹事 萩野一彦さん インタビュー

今回ご紹介するのは、植物の力を活用したまちづくりを研究する「ランドスケープ経営研究会」。コミュニティにおけるみどりの可能性をよりいっそう高めるためには、「様々なジャンルの人たちの協働が不可欠」と代表幹事の萩野一彦さんは語ります。植物のプロフェッショナルとして全国各地で活躍するグリーンアドバイザーへの期待も。

萩野一彦(はぎのかずひこ)さん プロフィール

1960年東京生まれ。一般社団法人ランドスケープコンサルタンツ協会理事、ランドスケープ経営研究会代表幹事、株式会社ランドプランニング代表取締役、千葉大学大学院ランドスケープ学コース客員教授。ランドスケープを軸とした総合的まちづくりの計画デザイン実務・教育・研究・社会活動に取り組む。2017年にランドスケープ経営研究会を設立。

取材・文/小瀬村泰人(株式会社コセプロ)
写真提供/ランドスケープ経営研究会

 

多様な担い手が主導する新たなまちづくり

2017年に都市緑地法、生産緑地法、都市公園法が改正され、「Park-PFI」(※注1)を始めとする公民連携の緑地利用に向けた新たな進め方が示されました。これを機に設立されたのが、ランドスケープ経営研究会です。代表幹事の萩野一彦さんによると、「新しい制度の活用が進むなかで、まちづくりに取り組む主体は従来の地方自治体や公共団体から、住民・NPOなど多様な主体に変化した」といいます。

同研究会では、「民間の資金とアイデアで公園を柔軟に使いこなす」、「身近な公園や緑地がハブとなったまち全体のコミュニティをつくる」、「設計、施工、管理運営が一体的かつ継続的な仕事をする」といった目的を掲げ、4つのワーキンググループ(開発・研究・交流・広報)を設置。事業課題やアイデアの研究・発信、地域プロジェクトの実践、シンポジウムやセミナーの開催などに取り組んでいます。

※注1
Park-PFI……「公募設置管理制度」の通称。都市の公園や広場などで、飲食店や売店などの収益施設を設置・管理する事業者を民間から公募し選定すること。都市緑地法の改正では空き地の活用などを想定。NPOやまちづくり会社などの民間団体が市区町村長による認定を受けて、オープンアクセスの市民緑地を設置・管理できるように。また、生産緑地法の改正では直売所や農家レストランなどの設置も可能に。

 

みどりの価値を地域全体で共有し管理する仕組み

「今、ランドスケープ経営は公園などの枠組みを超えて、まち全体へと広がっています」と語る萩野さん。全国各地には約10万か所、12万ヘクタールにも及ぶ公園があるそうですが、そのほとんどは小規模のもので、自治体や公共団体の厳しい財政事情などから、維持管理や運営が十分にできていないといいます。

「公園や緑地などにとらわれず、地域全体のみどりの価値をみんなで認識し、高めることが重要」と話す萩野さんは、コミュニティの身近なみどりを生かし、持続的に維持していく仕組みづくりが必要と訴えます。そこで注目されているのが、『コモンズ』という考え方。地域社会が管理して誰もが利用できる自然資源のことで、公園や住宅地、神社仏閣など、コミュニティのあらゆるみどりの価値を地域住民が共有し、将来にわたって維持管理、運営していく仕組みを指します。

「たとえ公共の緑地でも、地域の人が“私たちのみどり“という意識で自ら管理したり、それを維持する資金を自ら稼げる運営方法を確立すれば、税金などを投入しなくてもみどりの維持管理ができます。私たちはそんな経営モデルの実現を目指しています」

 

イベント用プランターの管理者を「みどりの里親」として募る

2021年、同研究会は埼玉県大宮市のまちづくりコンペティションで、「モデルプロジェクト部門」優秀作品、「プレイヤー部門」入賞作品に選出されました。このときに地元住民との交流が生まれ、様々な活動に発展したそうです。

「大宮駅東口から少し歩くと神社の参道の東側に住宅地が広がっていて、その先に広大な農地とみどりが広がる『見沼田んぼ』があります。このエリアを舞台に、市民グループの方たちと協働でみどりの街づくりモデルの開発に取り組んでいます」(萩野さん)

その1つが、「おおみや街もりバスケット」の里親募集。これは、イベント時などに使用する高さ2mほどの樹木のプランター30鉢を管理してくれる人を地域住民から募り、“里親”として預ける仕組みです。

プランターに使う樹木は、地域の里山にある木々を活用。これを大人2人で移動できるサイズのプランターに植え、水やりなどの日常管理を里親に委託するものです。イベントがあるときは各戸から搬出して空間演出などに利用。それ以外のときは、里親の自宅の玄関先や店舗の店先などに飾るなどして楽しんでもらうというユニークな試みです。

 

真夏の暑熱対策も植物の力を活用

夏には同市で「みどりの体感ワークショップ」というイベントが開催されました。盛夏の街なかにおける暑熱対策として、商店街の一角に「門街涼風ラウンジ」と名づけた休憩スペースを設置。ここに「街もりバスケット」のプランターを置き、ミストなどと組み合わせることで、クーラーを超える涼しさと快適さを体感できる実験空間を作り上げました。

「日本酒の試飲会やライブイベントなども共催し、地域住民や参加者同士の交流の輪が広がる貴重な場になりました」と萩野さん。ほかにも、市民団体が主催するイベントにブースを出し、「街もりバスケット」と合わせた寄せ植えを学ぶワークショップや、庭・ベランダでのガーデニング手法についてアドバイスを受けられる相談会なども行っています。

「寄せ植えワークショップを見た商店街の商業ビルのオーナーさんが、『みどりを活用することで商店街の魅力を高められるかも!』とおっしゃってくれて、みどりの可能性を見出すきっかけ作りになったのが嬉しかったですね」(萩野さん)

 

グリーンアドバイザーとの連携・協働に期待

「『街もりバスケット』の里親になってくれた人たちは、植物管理の専門知識が必ずしもあるわけではないので、猛暑の厳しい条件下でうまく育たなかったり、枯れてしまったケースもありました」と振り返る萩野さん。こうした管理作業の指導や助言に、植物のプロであるグリーンアドバイザーが協力したり、ガーデニング相談会などで講師として参加したりといったコラボレーションの可能性が期待されます。

「行政や自治体は、植物の維持管理・運営にかかる人手不足に常に悩まされていますから、グリーンアドバイザーのように専門知識を有する熱意のある方たちは、とても貴重な人材だと思います」(萩野さん)

個人やグループなどが主体となって始めた地域の緑化や花のまちづくりといった活動が、自治体を巻き込んだ大きな事業に展開する例も増えており、同研究会では今後そうした取り組みを顕彰するアワードの創設なども検討しているそう。

植物と関わる様々な人たちが、垣根を超えてつながり合うことで、新たな時代のみどりの可能性はより一層広がるに違いありません。

 

(DATA)

〈ランドスケープ経営研究会〉

「新たな時代のみどりとオープンスペースのビジネスモデルの構築」を目的に、事業課題やアイデアの研究・発信、地域プロジェクトの実践、シンポジウムやセミナー・意見交換会などの開催、ウェブサイトの運営、メールマガジンの発行などを行う。

ランドスケープ経営研究会 事務局

〒103-0004 東京都中央区東日本橋3-3-7 近江会館8階
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◆ランドスケープ経営研究会公式サイト◆

   https://www.lba-j.org/

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